インターネット回線の擬似
クロスサイド 鈴木です。
SD-WANはインターネットの状況に応じて最適な回線を選択しますが、日本のインターネットは品質が高く実インターネットを使用した障害試験は極めて困難です。そこで、弊社はよくエミュレータを用いてインターネットの品質劣化を疑似します。今回は、インターネットの品質劣化の擬似手法を紹介します。
日本のインターネットの品質評価
弊社は実インターネットを使ったSD-WANの試験もやっています。ですが、実インターネットを使う頻度は非常に低く、エミュレータをよく使います。というのは、日本のインターネットは高品質過ぎてSD-WANの試験ができるような障害は滅多に発生しないからです。
それでは、日本のインターネットがどの程度の高品質なのかを少しだけ紹介します。以下スクリーンショットは遅延やパケットロスを元に「どの程度の快適さか」を評価するQoEと呼ばれる値の表示です。実際のインターネットは殆どが緑色表示で十分に快適である事が分かります。
VMware SD-WANはQoEのような大雑把な指標だけではなく、遅延・パケットロス・ジッターも記録しています。以下は、遅延の表示画面です。
インターネット回線の擬似
擬似手法の概要
遅延やジッタ等はtc(traffic control)のnetem(Network Emulation)で擬似できます。netemは一般的なLinuxディストリビューションで使用可能です。例えば、遅延10ms, ジッター1ms, パケットロス0.8%の環境を再現するならば、以下のように操作します。
tc qdisc add dev ens192 root netem delay 10ms 1ms loss 0.8%
tc qdisc add dev ens224 root netem delay 10ms 1ms loss 0.8%
帯域制限はtc(traffic control)のtbf(token bucket filter)で擬似できます。tbfは一般的なLinuxディストリビューションで使用可能です。例えば、50Mbpsの環境を再現するならば、以下のように操作します。
tc qdisc add dev ens192 root handle 1:0 tbf rate 50mbit burst 25kb limit 250kb
tc qdisc add dev ens224 root handle 1:0 tbf rate 50mbit burst 25kb limit 250kb
QoEの評価評価基準
VMware SD-WANはインターネット回線の遅延, ジッター, パケットロス率を計測し内部的に保存します。ですが、遅延, ジッター, パケットロス率を見て「どの程度快適なのか」を直感的に把握するのは難しいため、「どの程度の快適さか」を示すQoEと呼ばれる指標があります。「kb2733094」によると、QoEは緑, 黄, 赤の3段階で表示され、音声トラフィックは以下のように定義されます。
評価項目 | 緑 | 黄 | 赤 |
---|---|---|---|
遅延 | 25ms未満 | 65ms未満 | 65ms以上 |
ジッター | 7ms未満 | 30ms未満 | 30ms以上 |
パケットロス | 0.3%未満 | 1.0%未満 | 1.0%以上 |
動画トラフィックは以下のように定義されます。
評価項目 | 緑 | 黄 | 赤 |
---|---|---|---|
遅延 | 25ms未満 | 65ms未満 | 65ms以上 |
ジッター | 5ms未満 | 15ms未満 | 15ms以上 |
パケットロス | 0.05%未満 | 0.1%未満 | 0.1%以上 |
トランザクショントラフィックは以下のように定義されます。
評価項目 | 緑 | 黄 | 赤 |
---|---|---|---|
遅延 | 50ms未満 | 80ms未満 | 80ms以上 |
ジッター | 定義なし | 定義なし | 定義なし |
パケットロス | 1.0%未満 | 3.0%未満 | 3.0%以上 |
遅延の擬似
tcコマンドを使って広域網の遅延を擬似します。インターネット回線に片方向50msecの遅延を設定し、MPLS回線に20msecの遅延を擬似します。すると、以下スクリーンショットに示すようにインターネット回線の音声品質評価は「黄(65msec未満)」と評価され、MPLS回線の音声品質評価は「緑(25msec未満)」と評価されます。
帯域の擬似
VMware SD-WANは回線速度を計測する機能があります。計測された回線速度のスピードでパケットを送信する事で過度の再送制御を防ぐ効果が期待できます。現在の回線速度の測定結果は監視画面で確認できます。
この状況でインターネット回線の帯域を300Mbpsに制限してみましょう。操作例は以下の通りです。
tc qdisc add dev ens192 root handle 1:0 tbf rate 300mbit burst 300kb limit 3mb
tc qdisc add dev ens192 parent 1:0 handle 2:0 netem delay 50ms 0ms
tc qdisc add dev ens224 root handle 1:0 tbf rate 300mbit burst 300kb limit 3mb
tc qdisc add dev ens224 parent 1:0 handle 2:0 netem delay 50ms 0ms
この設定はすぐにはVMware SD-WANには反映されません。高頻度で回線速度を計測すればそれだけ回線に負担を与えてしまいます。ですので、SD-WAN Edgeは起動時または低頻度で回線速度を計測します。もし、今すぐに回線速度を計測したい場合は、リモート診断の「WAN Link Bandwidth Test」をクリックすると回線速度が計測されます。
監視画面でインターネット回線の帯域幅が約300Mbpsに変わった事を確認できます。